うたかたの

よどみに浮ぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

全部夏のせい

最近どうにも調子が出ない。

多分それは暑いから。毎日毎日飽きもせず、うるさいくらいに暑いからだ。うだるような暑さは四六時中まとわりついて離れてなんてくれないし、湿気と熱気をギュギュっと閉じ込めた空気の中じゃ息するのだってうんざりする。その上、朝起きた瞬間から日差しが既に暑いというか痛いんだから、これは一体何の罰ゲームなのか…もういい加減にしてほしい。この暑さ、誰でもいいから誰か何とかしてくれないか。こんなとき何とかしてくれる人って誰?誰に頼ればいいんだろう?…いやダメだ、頭が回らない。もう無理、何も考えたくない。考えることがまずだるい。というか、「暑い」以外の思考が入ることをそもそもこの暑さが許してくれないって、何この状況?ほんとどうかしちゃってる。もうわたしに一体どうしろと?どうして欲しいと言うのだろう?わからない。わかるのは毎日暑い、ただそれだけ。もう今はそれしかないし、それ以外考えられない。わたしの毎日はこの暑さに支配されてしまっている。毎日暑い。とにかく暑い。暑い暑い暑い。

なんでこうも毎日暑いのか?…ああそうか、夏だ。夏のせいだ。暑くてイライラしちゃうのも、だるくて食欲が出ないのにジャンクフードだけにはなぜだか胃を許してしまうのも、夏のせいに違いない。冷たいものばかり摂取して身体がなんだか冷えるのも、そのせいなのかやたらと脚がむくむのだって、全部ぜーんぶが夏のせいだ。

夏め、そうかお前か。お前が犯人だったとは。

道理でおかしいと思っていた。何かが違うと感じていたんだ。暑さに比例するように、日増しに大きくなってくわたしの中の不具合というかぬぐい切れない違和感の正体も、それも全部が夏、お前のせいだったというわけか。

彼らを見る度に自然と緩んでいたはずの頬をいつからか意識して上げるようになってしまったのも。毎日溢れんばかりだったときめきを目を凝らして探すようになってしまったのも。彼らが輝いて見えちゃう特別仕様のフィルターがなぜだか最近曇りがちになってるのも。あれもそれもこれも全部ひっくるめて、すべては夏、お前のせいだ。

ああ何たる不覚。これはもう完全に夏を見くびっていたわたしの落ち度だ。反省しよう、そうしよう。確かに個人的に夏休みと縁遠くなってからというもの、わたしはお前に冷たい態度をとっていたかもしれない。そりゃでも仕方がないことだろう?わたしの態度が悪かったなら謝る。夏よ、ごめん。冷たくして。だってお前はいつだってうっとおしいくらいに暑いから。それでも歓迎こそしなかったが、これまで毎年迎えいれてやったじゃないか。でも、そうだよな。嫌な態度をとったわたしが悪い。100%悪い。人として礼儀を欠いていたと反省する。これからはなるべく態度に出さないように努めるから。社会で培ってきた外面をお前の前でも被ろうじゃないか。うんうん、そうだな、親しき中にも礼儀ありだ。わたしとお前の仲だから許されるだろうとか、わたしが甘かった。お前が何も言わないからって、その優しさに甘えていた。ほんとすまない。申し訳なかった。

…さて、これで一通りの謝罪を終えたってことでそろそろ話を戻していいだろうか?あのさ、夏よ。でもさ、いくらわたしの態度が悪かったからって、これはないんじゃないか?もう何十年来の付き合いである季節に、毎年少しずつ尺長めになってきてる昔馴染みのお前に、まさかこの年齢になって強めの一撃を食らうとは。思ってもみなかった。考えもしなかった。くそう、夏め。謀ったな?

まあ、夏への文句はこれくらいにしといてやろう。まだまだ言いたいことはあるけれども。

とにかく、今はまだ結論を出すには早すぎる。わたし自身もまだはっきりと自覚するには至っていない。まだこれはあくまで初期症状の段階で、ここからV字回復する見込みだってあるはずだ。だから、この件については、とりあえず一旦保留が望ましいと考える。変につついて、藪蛇になってはたまらない。わたしはまだまだこのカラフルな9色の雪原に留まっていたいのだ。お願いだから、まだここにいさせてほしい。世知辛い現実をそれなりにせっせと歩むわたしにだってそれくらいのご褒美があってもいいだろう?そうだそうだ、ご褒美大事。心のオアシスは生きてく上ではとっても大事。この暑さで心までもが熱中症になってはたまったもんじゃない。ただ、今はちょっと暑くて思考がうまく働かない。それを言い訳にして、この件は一旦先送りということでどうかひとつ。もうちょっと、せめてこの暑さが消えるまで、涼しくなるまで結論を出すのは待ってくれ。だってもしかしたらもしかするかもしれないし。単なる思い過ごしかもしれないし。スノへの気持ちが少しずつしぼんでいってる気がするのは、ただ単に暑さで生じたバグのせいかもしれないわけで。すべてはこの図々しいまでの猛暑がなせる業、多分きっとそうだ。いや、そうに違いない。むしろそういうことにしちゃったっていいはずだ。だって毎日こんなに暑いんだから。わたしは毎日この暑さに付き合ってやってあげてるのだから。夏だってちょっとくらいの責任転嫁を許してくれたっていいでしょう?だってわたしと夏との仲だもの。夏にはあとできちんと頭を下げる。誠心誠意謝るから。

だから、とりあえず今は全部夏のせいにしてしまおう。今はそれでいい。いや、それがいい。